??白川英樹教授が導電性ポリマーを発見・開発し、2000年にノーベル化学賞を受賞するに至るまでの経緯を具体的なエピソードを交えて事細かに書いた本。控えめながら、人並み外れた好奇心と洞察力を持つ白川教授が、いかにしてこの世紀の大発見に至ったのかが、一般の人にもわかりやすいように、平易な文章で書かれている。 ??導電性ポリマーの母体となるポリアセチレン薄膜の発見は当時、白川教授の下で研究をしていたピョン博士の予想外の失敗によってもたらされた。「失敗は失敗としても、同じ失敗はくりかえしたくない」という教授の研究に対する真摯な姿勢が失敗の原因をつきとめ、画期的な大発見につながったのである。 ??この本の魅力は、単なる成功談にとどまらず、技術的な面にまで踏み込んで書かれていることである。化学を勉強している人であれば、導電性ポリマーの合成法やその構造、ドーピング現象などの解説を読んで、従来の科学的常識を覆す独創的な発見をじかに知ることができるだろう。 ??後半部分の村上陽一郎教授、福山秀敏教授との対談では、教授がいかにして化学に興味を持ち、研究に没頭することになったか、いかにして同じくノーベル化学賞を受賞したマクダイアミッド教授やビーガー教授といった優秀な化学者と出会ったのかについて語られており、「人間・白川英樹」がどうやって形作られてきたかをうかがい知ることができる。 ??対談の最後では、かつてのノーベル化学賞受賞者、福井謙一博士同様、広く学ぶことの重要性を説いているが、この辺は、実際に物理学者などとの交流を持つ教授だけに説得力がある。研究者のみならず、若い学生や一般の人にとっても学ぶべきところの多い1冊である。(杉本勇人)
日本人研究者
地道にこつこつと努力を続けることで偉大な業績につなげていく日本人的スタイルからの偉業達成に勇気付けられる一冊。権謀術数により政治的能力を発揮しなくても成果は得られるという理屈がここにはある。キーワードはやはりセレンディピティなのである。
セレンディピティ的発見の好例:問題意識を持つことが重要!
後々のノーベル賞受賞に繋がる発見「ポリアセチレンフィルムの合成」、これはセレンディピティ的な発見(外国人研究員の失敗実験)だったわけですが、この失敗実験の重要性に気付くかどうかの分岐点は、常日頃の問題意識にあったんだな、ということに気付かされます。ポリアセチレンの構造に関する情報が知りたくても、それまでの粉体では出来る実験が限られていて隔靴掻痒の状態であったこと。だから、この失敗実験で出来た「ボロ雑巾状の膜」を捨てなかった、何が出来たのか興味を持てた、「ひょっとしてポリアセチレンの膜では?」、そして分析してみてビックリ!、ということになったのでしょう。この発見が白川先生版「わらしべ長者」の物語のスタートなのです。(ノーベル賞受賞対象の「導電性ポリマー」発見まで、このフィルム合成の発見からあと十年くらいかかります)
大学の物理・化学を少し知っていないとやや分かり難い処もあり、一般読者にはやや敷居が高いかな、という点で★4つです。(スピン0、ソリトン、半導体?金属、共役系、などの用語の意味が分かれば本書は難なく読めます) 他にも「日本人の独創性」に関するコメントなど、とても興味深く読めます。日本人は母国語で科学が出来るのですから、もっと自信を持って良さそうです。
本書を通じて「幸運の女神の前髪を掴む」(※)とはどういうことなのかが窺い知ることが出来ます。セレンディピティ的発見を捉える心構えについては「セレンディピティー―思いがけない発見・発明のドラマ」(ロイストン・M. ロバーツ)が詳しいです。こちらもお薦めですね。
(※)幸運の女神は前髪しか生えてなくて、頭の後ろはツルツル。だから「あっ、あれが幸運の女神だったんだ」と気付いて振り返ってからでは時すでに遅し、もう女神の髪は掴めませんょ、ということだそうです。
報道されない部分まで詳しく。
2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生の講演や対談を、受賞直後に編んだもの。5編のうち「2」のノーベル賞受賞記念講演と「5」の雑誌『科学』での鼎談がノーベル賞受賞後のもの。ポリアセチレン(白川先生の研究対象となった電気を通すプラスチック)の構造や、ノーベル賞受賞までのいきさつなどが詳しく語られる。ポリアセチレンをあまりよくしらない人は、第3編→第2編の順にお読みになるといいかも。 ノーベル賞には「実験での失敗」が付き物のようだが、この本でも失敗のエピソードが語られている。ポリアセチレンのしくみを研究中、研究生が触媒を1000倍もの濃度にして使ってしまった。ところがビーカーの中を見るとそれまで作ることのできなかったポリアセチレンのフィルムができているではないか。この偶然がノーベル賞につながった…。報道でよく取りあげられた話である。 ただ、もちろん話には続きがある。この結果を論文に書いても学会の反応がなかったこと、マクダイアミッド博士(ノーベル賞共同受賞者)と出会ったこと、ドーピング(ポリアセチレンに臭素という物質を混ぜ入れる)実験でポリアセチレンの伝導性を1000万倍にも跳ね上げることに成功したことなど、ノーベル賞受賞への階段となる他の要素も詳しく語られている。 この『化学に魅せられて』の発行と同時期に、朝日新聞社から『私の歩んだ道』という、同じく緊急出版的な本が出ている。 『私の歩んだ道』は、一般向けシンポジウムの様子を文にした部分が多い。科学にさほど詳しくない人も読める。教育のあり方や、社会全般についても話されている。 一方『化学に魅せられて』は、村上陽一郎先生との対談や、雑誌『科学』に掲載された鼎談などの部分が多い。白川先生の研究内容をより詳しくしりたい方や、化学に明るい方はこの『化学に魅せられて』のほうが向いているだろう。
白川さんに魅せられて
ポリアセチレンフィルムの発見に始まりアランヒーガー教授とアランマグダミアット教授との出会いに至るまでのストーリーは先生のすばらしさと人間性の豊かさを知ることができた。まさにセレンディピティー!!
岩波書店
私の歩んだ道―ノーベル化学賞の発想 (朝日選書 (670)) 生涯最高の失敗 (朝日選書) ノーベル賞10人の日本人―創造の瞬間 (中公新書ラクレ) 人生は意図を超えて―ノーベル化学賞への道 (朝日選書) 物理学とは何だろうか〈上〉 (岩波新書)
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